発達支援プロフェッショナルのための実践ガイド

吃音のある子どもへの支援 ~評価のポイントと具体的なアプローチ~

Tags: 吃音, 言語聴覚, 発達支援, 評価, 支援アプローチ

子どもの発達支援に携わる専門家の皆様へ

日々の臨床、お疲れ様です。発達支援の現場では、様々な特性を持つお子さんと向き合う中で、新たな知識や技術の習得が常に求められます。特に経験が浅い段階では、直面する多様なケースに対し、どのように評価を進め、どのようなアプローチを選択すべきか迷うことも少なくないかと存じます。

本記事では、子どもの吃音(どもり)に焦点を当て、その理解から具体的な評価、そして実践的な支援アプローチについて解説いたします。吃音は、その現れ方や背景が多岐にわたり、専門家にとっても対応に難しさを感じやすい領域の一つかもしれません。しかし、適切な知識とアプローチを知ることで、お子さんやそのご家族へのより質の高い支援が可能となります。

吃音とは何か:基礎知識

吃音は、話し言葉の流れが滑らかでない状態を指し、「話し言葉の非流暢性」とも呼ばれます。具体的には、以下のような症状が含まれます。

これらの中心的な症状に加え、瞬きや体のこわばり、口の周りの動きなどの二次的な随伴症状が見られることもあります。

吃音は、その発症時期によって分類されることが一般的です。

発達性吃音は、言語発達、運動発達、気質・性格、環境要因など、複数の要因が複雑に絡み合って生じると考えられています。特定の単一の原因があるわけではない点が、支援を考える上で重要です。

吃音の評価:何をどのように見るか

吃音のあるお子さんへの支援を開始するにあたり、まずは丁寧な評価が不可欠です。評価の目的は、単に吃音症状の程度を測るだけでなく、お子さんの全体的なコミュニケーション能力、発達段階、家庭環境、吃音に対するお子さんやご家族の認識や感情などを包括的に把握することにあります。

評価のポイント

  1. 非流暢性の分析:

    • タイプ: 繰り返し、引き伸ばし、ブロックなど、どのような非流暢性が predominant(主として現れるか)を観察します。
    • 頻度: 会話全体に対する非流暢な発話の割合を評価します。
    • 持続時間: 引き伸ばしやブロックの長さなどを観察します。
    • 随伴症状: 二次的な行動(瞬き、顔のしかめ、体の揺れなど)や生理的な反応(声質の変化、呼吸の変化など)の有無とその程度を観察します。
    • 重症度: 吃音の全体的な重症度を評価ツールを用いて測定します。代表的なツールとして、SSI(Stuttering Severity Instrument)などがあります。
  2. コミュニケーション能力全体の評価:

    • 言語理解、表出言語、語彙、構文などの言語発達レベルを評価します。吃音だけでなく、全体的なコミュニケーション能力を理解することが、適切な支援方法を選択する上で重要です。
    • 非言語コミュニケーション(表情、ジェスチャーなど)の使用状況も観察します。
  3. お子さん自身の吃音に対する意識や感情:

    • 吃音について、お子さんがどのように感じているか、どのように認識しているかを探ります。不安や恥ずかしさを感じているか、話すことに対して消極的になっていないかなどを、遊びなどを通して観察したり、年齢によっては直接尋ねたりします。
  4. ご家族の吃音に対する認識や関わり:

    • ご家族は吃音をどのように捉えているか、吃音に対してどのような関わり方をしているかを伺います。過度に修正を求めたり、話し方を指示したりしていないかなど、家庭でのコミュニケーションスタイルを理解します。ご家族の不安や心配事についても丁寧に耳を傾けます。
  5. その他関連情報:

    • 吃音の発症時期、経過、既往歴、発達歴、学校や園での様子、友人関係なども聴取します。

評価の方法

これらの評価を通じて、お子さんの吃音の特性、重症度、コミュニケーション能力、心理的側面、環境要因などを多角的に理解し、個別の支援計画を立案するための基礎とします。

具体的な支援アプローチ

吃音のあるお子さんへの支援アプローチは、お子さんの年齢、吃音の重症度、随伴症状の有無、心理的側面、ご家族の希望などによって異なります。ここでは、代表的なアプローチをいくつかご紹介します。

幼児期(就学前)へのアプローチ

幼児期は吃音の発症が多い時期ですが、自然回復の可能性も高い時期です。この時期の支援の中心は、直接的な吃音修正訓練よりも、お子さんの流暢性を高める環境調整と、ご家族への支援(間接法)となることが多いです。ただし、吃音が重度である、随伴症状が見られる、吃音に対する意識が高いなどの場合は、より直接的なアプローチを検討することもあります。

学齢期以降へのアプローチ

学齢期以降も吃音が持続している場合、吃音そのものへの直接的なアプローチに加え、吃音によって生じうる心理的・社会的な課題(話すことへの恐怖、コミュニケーションの回避など)への対応も重要になります。

支援の進め方と留意点

保護者との連携

吃音支援において、保護者との連携は成功の鍵となります。定期的な面談を通じて、お子さんの状況や支援の進捗を共有し、家庭での関わり方について具体的なアドバイスを提供します。保護者が抱える不安や疑問に対して、専門家として丁寧に対応し、信頼関係を築くことが重要です。家庭での環境調整や練習への協力を得ることで、支援効果を高めることができます。

まとめ

吃音のあるお子さんへの支援は、多角的かつ個別のアプローチが求められます。正確な評価に基づき、お子さんの年齢や特性に合わせた支援方法を選択し、ご家族や関係機関と密接に連携しながら進めることが成功への道となります。

吃音のあるお子さんやそのご家族は、日々のコミュニケーションの中で様々な困難に直面している可能性があります。専門家として、吃音という現象だけでなく、その背景にあるお子さんの気持ちや、ご家族の思いにも寄り添う姿勢が大切です。

本記事が、吃音のあるお子さんへの支援に携わる専門家の皆様、特に経験の浅い若手の皆様にとって、日々の実践に役立つ一助となれば幸いです。常に学び続け、目の前のお子さんにとって最良の支援を提供できるよう、共に努めてまいりましょう。